「健康」「病気の予防」「病気の管理」・・・
ヘルスコーチングは、これらをサポートする注目のアプローチです。
従来型の一方的、一律の指導・教育とは異なり、ヘルスコーチングは自分自身が主役となり主体的に取り組むことをサポートする点が特徴です。
本記事では「そもそも、ヘルスコーチングって何なの?」ということから、その効果や選ぶ際のポイントまでわかりやすく解説していきます。
これからの時代は、自己管理を超えたプロフェッショナルなサポートが重要となるシーンが増えてくるでしょう。
ぜひ、この機会にヘルスコーチングについての理解を深め、自分自身や身近な人々の充実した日々・人生に役立ててください。
この記事を通じて、ヘルスコーチングの実践的な価値と可能性を皆さんにお伝えしていきます。
1.ヘルスコーチングとは?
まず初めに、ヘルスコーチングの成り立ち(歴史)とコンセプトについて見ていきましょう。
歴史:ヘルスコーチングは「病気を予防・管理するため」にある
ヘルスコーチング注1)は、1990年代後半に提唱され、米国を中心に発展してきたコンセプトです1。
高血圧、ダイアベティス(糖尿病)、脳卒中、がん、、、、
私たちにとって身近な病気である、これらの非感染性疾患(慢性疾患)注2)の発症には、日々の「行動」が大きく関わっています2。
そのため、これらの病気の発症を予防する、あるいは適切に管理するためには、行動をいい方向に変える必要があります。
「健康な人は、健康を維持し病気を予防するために目指すべきゴールがある」
「病気がある人は、病気を適切に管理するために到達すべきゴールがある」
そのゴールに達するための「行動」の「変化」(行動変容)をサポートする方法がヘルスコーチングであり、ヘルスコーチングは、慢性疾患の予防・管理の解決策の1つとして提唱され、発展してきました。
ヘルスコーチングは比較的新しいコンセプトですが、非感染性疾患(慢性疾患)を予防するものとして非常に重要なアプローチです。
注1)ヘルスコーチングは、国外ではhealth and wellness coaching(HWC)と呼称されることもありますが、この記事では「ヘルスコーチング」として記載します
注2)非感染性疾患(non communicable diseases:NCDs)は、慢性疾患とも呼ばれ、高血圧、ダイアベティス(糖尿病)、脳卒中、がんなど、感染症ではない病気の総称です
なお、病気の予防に興味がある方は、こちらの記事もオススメです。
コンセプト:ヘルスコーチングの「主役は自分」
ヘルスコーチングは、その必要性から提唱され、発展してきた経緯があり、明確な定義の下で生まれたものではありませんが、ヘルスコーチングの「コンセプト」に関しては2013年に研究結果が公表されています3。要点は以下のとおりです。
- 専門的な情報の提供を受けながら・・「行動を変える(行動変容)」ためには、そもそも、適切な知識・目指すべき目標等がなければ、効果は期待できません。適切な情報を「知り」「理解する」ことが、個々人の行動変容を促進します。
- 能動的な姿勢で臨み・・「指示に従ってただ行動する」とか「アドバイスを受けてその通りに行動する」というのではなく、自分自身と自分の生活を振り返りながら、「自分の性格はこうだから、この方法よりはこっちが合っているな」とか、「今はまだこの段階ではないかな」など、主体的に行動をマネジメントする姿勢です。自分の詳細を知らない他者からの一律のアドバイスよりも、自分の状況を踏まえた上で、様々な気づきを得ながら自分なりにアレンジすることで、行動をより変えやすくなるでしょう。
- 目標は個々人で決め(部分的にでも)・・画一的で実態にそぐわない目標ではなく、「自分の生活スタイルだと、こうするのがよいかな」「今は忙しいから、このくらいでキープしよう」というように、個々人がそれぞれのペース・段階に合わせて目標を決めていきます。
- 行動や結果に責任をもつ・・自らの行動や結果への責任をもつということです(accountability)。能動的な姿勢で臨み、個々人で目標を決めたら、自分の行動を自ら観察し、予定通りに出来ているかどうかを判断する、そして、結果・進捗を提供する人と話し合いどうするかを決める、ということです。「自分事」として、自らの行動や結果に責任を持つことが、その効果を後押しします。
- それぞれの個人を中心としたアプローチ・・上の4つの内容からもわかるように、ヘルスコーチングの主役は「自分」であり、提供する側はあくまでサポーターの位置付けです。
一見、堅苦しく、ムズカシそうにも感じるかもしれませんが、
「日々の生活・行動は人それぞれ」
「日々、どう行動するかは自分自身が決めている」
ということを考えると、ごく当たり前で、自然なことだということがわかります。
私たちの日々は私たち自身のもの。主役は自分自身です。自分以外の人がすべてを把握できるわけもなく、また、画一的な方法が全ての人にとって最適であるはずがありません。
日々の生活のことを考えてみましょう。例えば、週末が休みの人もいれば、平日が休みの人もいる。朝型生活の方もいれば、夜型の方もいる。ご飯が好きな人もいれば、パン派の人もいます。体を動かすにも一人マイペースで行うのが心地よい人もいれば、みんなで賑やかに過ごすのが好きな人もいるでしょう。体調がすこぶるいい日もあれば、イマイチだなあと思う日もあるし、日々の多くのことが人によって異なります。
人それぞれ環境も好みも性格も違う中で、自分を深く知っているのは、まぎれもなく自分自身です。そして、自分の行動を適切に判断し、変えることができるのも自分自身なのです。そして、そのような日々の行動をサポートする手段がヘルスコーチングですので、ヘルスコーチングはあくまでサポーターであり、主役ではなく脇役なのです。
これはつまり、「どれだけ『自分事』として取り組むことができるか」がヘルスコーチングの効果を左右する大きなファクターであると言うことに他なりません。
注3)これらのヘルスコーチングは、行動変容・コミュニケーション・モチベーションに関する技術のトレーニングを受けた人によって、一貫性をもって継続的になされるものであるということも、「コンセプト」の1つと考えられています。
コンセプトに関する研究(概要)
ここでは、先に示したヘルスコーチングの「コンセプト」に関する2013年の研究の経緯と結果(概要)3をまとめます。
ヘルスコーチングは提唱されて以来、様々に定義され、用いられてきており、確立した定義はありませんでした。
そのような中で、「ヘルスコーチングの効果」が報告されるようになり、ヘルスコーチング(health and wellness coaching)のコンセプト、運用する上での定義が求められるようになってきました。
というのも「何をヘルスコーチングと定義するのか」をしっかりと定めないと、そもそもヘルスコーチングの効果も適切に評価できませんし、提供される内容も統一感のないものになるからです。
そこで、ヘルスコーチング(health and wellness coaching)がどのようなものと認識されているのか、多くの研究論文を検証し、そのコンセンサス(いわゆる総意)を定める研究が、2013年に行われました。
この研究では800のヘルスコーチング関連研究論文の中から300近くがセレクトされ、結果として、以下のコンセプトが報告されています(要約)。
a patient-centered approach wherein patients at least partially determine their goals, use self-discovery or active learning processes together with content education to work toward their goals, and self-monitor behaviors to increase accountability, all within the context of an interpersonal relationship with a coach. The coach is a healthcare professional trained in behavior change theory, motivational strategies, and communication techniques, which are used to assist patients to develop intrinsic motivation and obtain skills to create sustainable change for improved health and well-being.
Glob Adv Health Med. 2013 Jul;2(4):38-57.
上の記述の要点が、「コンセプト:ヘルスコーチングの『主役は自分』」に示した5つです。
ちなみに、上の記述では、対象がa patient(患者さん)となっていますが、その理由は、ヘルスコーチング関連研究論文は患者さんを対象としたものが主体であるからです。
しかし、「歴史」で述べているようにヘルスコーチングは慢性疾患の予防・管理の手段の1つであるため、患者さんに限定したものではなく、すべての人(an individual)が対象となります。
2.ヘルスコーチングが注目される理由
特別に意識することなく習慣化している日々の行動は、それぞれの環境(家庭環境も含む)や好み、性格等に左右され、知らず知らずのうちに違い(多様性)が生じています。
もちろん、これが何の影響も及ぼさないのであればいいのですが、日々の行動は病気の発症を左右していますので、無意識に病気の発症リスクを高める行動をとっていると、結果的に自分の生活・人生にネガティブな影響が及んでしまいます。
すべての病気を予防することは現実的に難しいですが、病気の発症リスクが高まるとわかっていて、なおかつ避けることができるものがあるのなら、取り組むに越したことはありません。
そのためには
- 病気を予防するための適切な知識を得る必要がありますし、
- 個々のライフスタイルに合わせた、行動の最適化が欠かせません
- さらに、伴走しサポートしてくれる人がいれば、行動の変化はより力強いものとなるでしょう
これらの機会を提供するのが、ヘルスコーチングです。日々、忙しく過ごす皆さんにとって、最適な知識・技術とサポートは、行動を最適化する大きなチカラになります。
3.ヘルスコーチングの効果
続いて、ヘルスコーチングの効果を見てみましょう。
早速、ヘルスコーチングに関する主な研究結果(概要)をお示しします4。
- 多く(全体の82%)の研究で、1つ以上のアウトカム(結果)が改善し、主なものは体重(減少)、血圧(低下)、食行動(改善)であった。(2018年発表のシステマティックレビュー:ヘルスコーチング(health and wellness coaching)が、食行動や栄養関連マーカーの改善に効果があるかを研究した11の米国発ランダム化比較試験を統合して検証:Am J Lifestyle Med. 2018 Aug 9;12(6):448-450.)
- 身体活動は有意に増加した。身体活動に対するバリア(例えば、膝や腰が痛くて出来ない、興味がない、体を動かす場所が近くにない)への認識の変化や、気分の落ち込みには有意な効果を認めなかった。食事や喫煙などは研究によって結果が異なり、身体活動に対するメリットの認識や飲酒、睡眠の質は有意な効果を認めなかった。(2023年発表のシステマティックレビュー・メタアナリシス:成人(中年)に対するヘルスコーチングの効果を検証するため、8つの研究を統合して検証:Am J Health Promot. 2023 May;37(4):555-565.)
これらの研究結果からわかるように、ヘルスコーチングは効果が報告されている一方で、効果が明らかではない事柄も報告されています。
「歴史」「コンセプト」のところでも述べているように、ヘルスコーチングは歴史が浅く、また、その方法が確立していないことから、まだまだ発展途上な領域です。
しかし、非感染性疾患(慢性疾患)の発症には、私たちの日々の「行動」が大きく関わっていますので、ヘルスコーチングを上手に活用できれば、とても大きな価値をもたらす可能性があることは確かです。
4.ヘルスコーチングはあくまで「骨組み」ー選ぶ時のポイント
慢性疾患の予防・管理の解決策の1つであるヘルスコーチングですが、これはあくまで「骨組み(フレーム)」であり、効果を出すには中身が大切です。
以下に、ヘルスコーチングを選ぶ際のポイントを挙げています。
−1:誰が提供するか
医療の専門家(医師、看護師、薬剤師等)、医療に関わる専門家(栄養士、理学療法士、作業療法士、臨床心理士等)など、誰が実際に担当しているのかは大きな要素です注4)。それぞれでバックグラウンドが異なるため、どのような知識と経験を背景に持つ専門家にコーチングを受けるのかは、ヘルスコーチングの内容と効果に大きく影響します。
−2:何を目的としているか
健康改善、病気予防など、それぞれのヘルスコーチングが何を目的としたものか、自分の目的に合っているかも大切なポイントです。特に「健康改善・健康促進」は時にあいまいなものになりがちなので、具体的にどのような効果が期待できるのか、それが自分の期待しているものと合致しているか、確かめるとよいでしょう。
−3:根拠があるか
具体的な効果を得るには、根拠が欠かせません。興味をもったヘルスコーチングサービスがあれば、どのような根拠に基づいたサービスか、そもそも根拠に基づくサービスなのか、確認しましょう。
−4:どのようなサービスか
対面かオンラインか、期間や費用なども、受講する際には大切です。自分の性格・ライフスタイル・イメージに合うサービスか、検討しましょう。
−5:継続的なサポートがあるか
行動の最適化は「継続」するほど、効果が高まります。また、行動を変えていく中で、様々な疑問や気になることが出てきた場合にも継続的なサポートは心強いものとなります。
「サポートがあった方がモチベーションも維持できるし、続けやすい」方には特に、一時的なサービスではなく継続的なサポートがあることも大切なポイントになるでしょう。
興味をもったサービスがあれば、公式サイト等でこれらを事前にチェックしてみましょう。
そして、実際にサービスを受ける上で最も重要なのが「相性」です。これは直接、コミュニケーションを取らないとわからないことも多々あると思いますので、実際にコミュニケーションを取り、自分と相性の合うサービスかを確かめてみましょう。
注4)世界的には、米国のNBHWC(The National Board for Health & Wellness Coaching)、NSHC(National Society of Health Coaches)などの団体がヘルスコーチングを行うヘルスコーチのトレーニングを行っているようです
5.プロフェッショナルヘルスコーチングのご紹介
Inefable(イネファブレ:以下、弊社)は「健康を維持し、病気のリスクを減らす」プロフェッショナルヘルスコーチングサービスを提供しています。
本サービスは「医師が提供する」「1対1の」ヘルスコーチングサービスであり、「科学的根拠に基づいて」「病気のリスクを減らす」ことにフォーカスしている点が特徴です。
また、希望される方には継続的なサポートも提供しています。
「無料面談」も行なっておりますので、ご興味のある方は、下記ウェブサイトからお気軽にご相談ください。
〜Inefableプロフェッショナルヘルスコーチングの特徴〜
- 「医師による」1対1のコーチングーダイアベティス(糖尿病)や高血圧、脂質異常症などの慢性疾患管理に豊富な経験のある医師が提供するヘルスコーチングです。また、1対1であるため、他者を気にせずに、ご自身のペースで過ごすことができます
- 「主要な病気へ」まとめてアプローチー病気の予防、しかも1つではなく主要な病気全体を対象としているため、複数のプログラム・サービスを受ける必要はありません
- 「科学的根拠に基づく」『ノウハウ』の提供ー根拠に基づいた知識と技術を提供しているので、多くの方に効果が期待できる内容です
- 「個人の状況に合わせた」個別化されたアドバイスー画一的ではなく、個人個人のその時の状況を踏まえた内容であるため、実践しやすく、その分、効果も期待できます
- 「継続的な」サポートー希望される方には、継続的なサポートで病気予防を支えます。一人だと続けられるか不安という方にも、心強いシステムです
参考情報
- Perlman AI, Abu Dabrh AM. Health and Wellness Coaching in Serving the Needs of Today’s Patients: A Primer for Healthcare Professionals. Glob Adv Health Med 2020; 9: 2164956120959274., Sforzo GA, Kaye MP, Todorova I, et al. Compendium of the Health and Wellness Coaching Literature. Am J Lifestyle Med 2018; 12: 436–47. ↩︎
- Piovani D, Nikolopoulos GK, Bonovas S. Non-Communicable Diseases: The Invisible Epidemic. J Clin Med 2022; 11. DOI:10.3390/jcm11195939., Calcaterra V, Zuccotti G. Non-Communicable Diseases and Rare Diseases: A Current and Future Public Health Challenge within Pediatrics. Children (Basel) 2022; 9. DOI:10.3390/children9101491., WHO. Noncommunicable diseases. WHO. 2023; published online Sept 16. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/noncommunicable-diseases (accessed June 21, 2024). ↩︎
- Wolever RQ, Simmons LA, Sforzo GA, et al. A Systematic Review of the Literature on Health and Wellness Coaching: Defining a Key Behavioral intervention in Healthcare. Glob Adv Health Med 2013; 2: 38–57. ↩︎
- Kwok ZC-M, Tao A, Chan HY-L. Effects of Health Coaching on Cardiometabolic Health in Middle-Aged Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. Am J Health Promot 2023; 37: 555–65., Kennel J. Health and Wellness Coaching Improves Weight and Nutrition Behaviors. Am J Lifestyle Med 2018; 12: 448–50. ↩︎